NYのジャズ・クラブ“Blue Note”
は、昨年の9月11日のテロ事件以来、恒例の日曜日のブランチ・ライヴを中止していたが、約半年ぶりに再開した。新企画として、NYを本拠地に活躍する日本人ミュージシャンをフィーチャーした、“East
Meets West“ シリーズをスタートし、その第2回目には、エー・ティー・エヌ発行のアーメン・ドネリアンの「インプロヴィゼイションのためのイヤー・トレーニング」の翻訳者で、ギタリストの井上智が、自己のクァルテットを率いて出演した。NYで、1ヶ月の充電休暇中の原朋直も、飛び入り参加し、来日直前の充実のパフォーマンスを魅せた。
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井上智は、神戸出身。70年代後半から、関西圏でプロ・キャリアを積み、89年に拠点をNYに移す。90年代初期から、NYのライヴ・シーンで頭角をあらわすとともに、ニュー・スクール大学群マネス音楽大のジャズ科の講師として、スタンダード・ソング分析クラス、ギター・パフォーマンス・クラスを担当し、教育者としても活躍している。90年代後半から、「プレイズ・サトシ」、「ソングス」のリーダー作をコンスタントにリリース。ジム・ホール、ビル・フリゼール、マイク・スターンらの教則ヴィデオの、音楽監督をも手掛けた。ジャズ・ライフ誌連載中の「毎月増えるスタンダード」も、スタンダード・ソング・エンサイクロペディアの異名をとる井上ならではの、鋭い分析と分かりやすい解説で、好評を博している。最新作の、6/19にWhat's
New Recordsからリリースされた「ライヴ・アット・スモーク」では、関西時代からの盟友、ベースの北川潔とのデュオで、絶妙のインタープレイを聴かせてくれた。6、7月は、このデュオ・ユニットで、日本ツアーの真っ只中である。
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2月のライヴ・レコーディングまで、最近はデュオ・フォーマットでの井上の演奏を聴く機会が多かったが、この日はピアノ・トリオを従えたクアルテットで、久々にアンサンブルの中での、井上のメロディアスなギター・プレイを堪能した。メンバーは、ピアノにマイケル・ケナン、先頃大ブレイクしたヴォーカリスト、ジェーン・モンハイトの伴奏で評価が高まったプレイヤーだ。サイラス・チェストナット(p)や、ウィントン・マーサリス(tp)との共演で知られ、ヴァーヴからリーダー作を2枚リリースし、ノー・ピック・アップで力強いベース・ラインを弾き出す中村健吾(b)、ノーマン・シモンズ(p)、ジョー・ウィリアムス(vo)との共演歴のあるポール・ウェルズ(ds)という、繊細なアンサンブルから、アグレッシヴなインタープレイまで、広い演奏のダイナミック・レンジを誇る布陣である。
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マイケル・ケナン
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スタンダード・ソングと、オリジナル曲がフィフティ・フィフティの構成であったが、美しいメロディの井上のオリジナル曲は、違和感なくスタンダードに溶け込む。それぞれの曲に、ユニゾン・パートや、デュオ・パート、ソロ交換があり、凝ったアレンジが施されていた。この半年の間、インター・プレイがもっとも重視されるデュオ演奏の方法論を、追求していた井上だが、その成果が見事にクァルテット編成にもフィード・バックされている。ジム・ホールの影響を感じさせる、精密に計算されたメロディと、効果的な音の選択、豊富なスタンダート知識をうかがわせるユーモラスな引用、周囲の音に的確に反応するリズミックなアプローチが、井上の演奏の特徴である。デュオのような、演奏のミクロなディテールを聴かせつつ、クァルテットによるマクロな曲のスケールの大きさを感じさせるパフォーマンスは、井上が新たな音楽的ステージに、昇ったことを証明している。
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中村 健吾 ポール・ウェルズ
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原 朋直
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セカンド・セットの、終わりの2曲には、原朋直がシット・インした。このギグの一週間前に、共にタナ・アキラ(ds)率いるJapanese
Jazz All Starsのメンバーとして、NY州北部のロチェスター・ジャズ・フェスティヴァルに出演し、好評を得たばかりの再共演だ。原のリラックスした自由奔放なプレイは、グループにブースターを装着し、サウンドにさらなる加速を与える。サンバ・チューンで、日曜日の昼下がりの演奏を、余韻を残しつつ締めくくった。この続きは日本での、井上智&北川潔デュオ・ライヴで体験して欲しい。
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