N.Y.ジャズ見聞録
|
![]() 石川 政実 |
石 川 政 実 @ Blue Note NY
ブルーノートNYの、日本人ミュージシャンをフィーチャーした日曜日のブランチ・ライヴ "East Meets West"も、好評のうち2年目になった。中堅から若手までNYジャズ・シーンで活躍するプレイヤー達が、レギュラー・グループやゲストを招いて出演し、意外な顔合わせや新たな発見があり、毎回楽しませてくれる。自らのトリオを率いて登場した、ATNの教則本の翻訳者の一人でもあるギタリスト/コンポーザーの石川政実を、リポートしよう。
|
この日のブルーノートは、日曜日のマチネ・ライヴにもかかわらず客席は八分の入りで、なかなかの盛況だった。オリジナル曲を中心としたファースト・セットに続き、ウォーミング・アップも十分なセカンド・セットは、「オール・ザ・シングス・ユー・アー」、ディズニー・メロディーの「フー・キャン・アイ・ターン・トゥー?」と小粋なスウィングで、リラックスしたブランチあとのレイト・アフタヌーンを演出する。トリオの一角、ベースの高梨学は、東京のセッション・シーンで活躍後、90年にNYに拠点を移し、ジャズ、ポップスと守備範囲の広いプレイヤーだ。ヴィクター・ジョーンズは、石川とアップタウンのジャズ・シーンで出会い、近年ステージを共にしているベテラン・ドラマーである。フレディ・ハバード(tp)から、チャカ・カーン(vo)、ゴンサロ・ルパルカバ(p)、ミッシェル・ペトロチアーニ(p)と、ジャズ、フュージョン、ソウル、ファンク、ワールド・ミュージックとジャンルを問わず、力強いグルーヴを叩き出している。
|
![]() ヴィクター・ジョーンズ |
||
キャッチーなメロディ・センスが光るオリジナル・チューンの「フロリダ・サンセット」、石川の愛奏曲でスタンダードの「ニアネス・オブ・ユー」と、スロウ&メロウなバラードが続いた。骨太なギター・サウンドで、メロディを慈しむようにフレーズを歌う。美しい原曲の旋律に、新たな魂が宿る瞬間だ。石川とは高校時代からの共演を重ね、お互いの手の内を知り尽くす高梨が息の合ったバッキングをつけ、ジョーンズが繊細なシンバル・ワークで包み込む。高梨が、エレクトリック・ベースに持ち替える。ゆったりとした8ビートが心地よい「チェルシー・ブリッジ」だ。石川のソロと共に、サウンドのヴォルテージがあがり、このグループのポップな側面がクローズ・アップされる。ジョーンズの怒濤のドラミングが圧巻だ。その勢いを駆ってソウル・ジャズのスマッシュ・ヒット・チューン「アリゲーター・ブーガルー」へと、なだれ込む。ハーレムのクラブではお馴染みのレパートリーだ。石川の、速い音の立ち上がりと、たっぷりとした音符のフレージングから生み出される独特のグルーヴ・センスは、ファンキー・チューンで、より鮮明に浮かび上がる。極太の音色と、鉄壁のリズム感覚のパット・マルティーノ(g)や、ブルース・ギタリストのバディ・ガイらのソウルフルな系譜と、師事したジム・ホール(g)のハーモニー感覚の影響を消化して、石川はワン・アンド・オンリーなギター・スタイルを確立している。ワイルドなギター・ソロに触発されて、高梨はトレード・マークの激しいスラッピングを聴かせる。ジョーンズがカウベルを乱打してプッシュしながら、ドラム・ソロへと突入し、セカンド・セットのファイナルを迎えた。リラックスしたレイト・アフタヌーンは、ファンキー・サンディへと、豹変してしまった。石川政実のニューヨーク、東京のディープな・ジャズシーンでの長年の活動が、今、ネオ・ソウル・ジャズという芳醇な果実を実らせ、収穫の時を迎えようとしている。 (3/14/2004 於 Blue Note NY)
|