N.Y.ジャズ見聞録
|
マリア・シュナイダーが切り拓く
ビッグバンド・ジャズの新たなる地平
Maria Schneider Orchestra @ JVC Jazz Festival 2005
NYの本格的な夏の到来を告げるのは、JVCジャズ・フェスティヴァルと、セントラル・パーク・サマー・ステージを中心とした、各地の野外コンサートの開幕である。今年のJVCジャス・フェスは、NYのメジャーなサマー・ミュージック・フェスティヴァルである”Celebrate Brooklyn!"や、"Hudson River Festival"とも提携したコンサートを、ラインナップに加えてきた。夕暮れ時にハドソン川河畔の、ワールド・ファイナンシャル・センター特設ステージを別世界に塗り替えたマリア・シュナイダー・オーケストラを、リポートしよう。 |
![]() マリア・シュナイダー |
今年2月のグラミー賞授賞式で、革新的なことが起きた。ベスト・ラージ・ジャズ・アンサンブル・アルバム部門で、レコード店の店頭には置いていない、自主制作盤でインターネット経由の通販と、ダウンロード販売のみのという販売形態をとったマリア・シュナイダー・オーケストラの「コンサート・イン・ザ・ガーデン」が、受賞作品に選ばれたのだ。 |
ミネソタ州ウィンダム出身のマリア・シュナイダーは、ロチェスターのイーストマン・スクール・オブ・ミュージックの大学院で、ボブ・ブルックマイヤー(tb,arr)に作曲、編曲を学び、1985年にニューヨークに進出した。師のブルックマイヤーもかつてアレンジを担当したサド・ジョーンズ=メル・ルイス・オーケストラの後進のメル・ルイス・オーケストラ、ギル・エヴァンス・オーケストラでアシスタント・アレンジャーを務め、モダン・ビッグバンドの旨味を自己のスタイルに吸収し、名匠ギル・エヴァンスの最後の弟子として、その最晩年に行動を共にする。 豪華なヨットや、クルーザーが繋留されているハーバーに面した、ワールド・ファイナンシャル・センターの中庭に、ステージはセッティングされていた。時刻は午後7時、夏至でサマー・タイムのため陽はまだ高いが、さわやかな風がハドソン川から吹いてくる。万雷の拍手とともに、マリア・シュナイダーとオーケストラの面々がステージに登場した。客席もほぼ満席に埋まっている。 |
|
|
||||||||||||||
ステージは佳境に達し、ラストチューンは、NYのビッグバンド・ホーンのボトムを長年支え続けている、バリトン・サックス、ベース・サックスの名手、スコット・ロビンソンをフィーチャーした「ザ・ウィロウ」で豪快な低音が響く。鳴りやまぬ拍手に応えたアンコールは、シュナイダーのリオ・デ・ジャネイロでの、ハングライダーにトライした体験を曲にした、「ハング・グライディング」だ。期待と不安が入り交じった離陸の心情を、グレッグ・ギスバートとの繊細なフリューゲル・ホーンで描き、頂点に達した興奮をドニー・マクカスリン(ts)の熱いプレイで染めていった。マクカスリンも、今年のグラミー賞で、「コンサート・イン・ザ・ガーデン」でベスト・ソロにノミネートされた実力者である。やっと夕闇が迫る中、オーケストラも90分に渡るサウンド・グライディングから、美しく着地した。今、マリア・シュナイダー・ミュージックの、そしてビッグバンド・ジャズの新たなチャプターが、始まろうとしている。 (6/21/2005 於 World Financial Center, NYC)
|