N.Y.ジャズ見聞録
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西藤大信 @ Blue Note NY
ニューヨークの代表的ジャズ・クラブであるブルーノートは、夜のレギュラー・セットだけでなく、金、土の深夜のジャズからジャムバンドなどの周辺音楽まで間口を拡げた"Late Night Groove Series"、不定期の催される有名ミュージシャンによる土曜の午後のクリニック、若手ミュージシャンや、在ニューヨークに日本人ミュージシャンがフィーチャーされる"Sunday Brunch"と、もっとも音楽が流れている時間の長いクラブと言えよう。若手ギタリストの西藤大信が、2004年に続いて日曜の午後に登場した。 |
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ジャズ・シーンに多くの才能を輩出しているバークリー音大出身の西藤は、卒業後の2003年にニューヨークに拠点を移し、精力的に活動しているプレイヤーである。バークリー卒業時に、学生仲間や恩師と制作したアルバム"The Remaining 2%"が、新人ジャズ・アーティストを積極的にスカウトしているスペインのインディ・レーベル、フレッシュ・サウンドから、2004年にリリースされるという僥倖に恵まれて、ニューヨークでのプロキャリアを快調にスタートする。ATNからは、バークリー音大で、様々な刺激を与えてくれた恩師のジョン・ダミアンの「ギタリストのための、作曲とインプロヴィゼイションの手引き」の翻訳を上梓した。ギターに対するコペルニクス的転回とも言える奇想天外なアプローチで、より柔軟な演奏を可能にする理論を提唱したジョン・ダミアンの門下からは、ビル・フリゼール(g)、マイク・スターン(g)など、現代ジャズ・ギター・シーンに異彩を放つ逸材を輩出しており、西藤もその一門に名を連ねている。現在は、セカンドアルバム'The Sea"のレコーディングが終了し、2006年前半にリリースの予定である。 |
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この日のライヴは西藤のファースト、セカンド・アルバムからの選曲に、スタンダード・チューンを織り交ぜて行われた。セカンド・アルバムのレコーディング・メンバーを中心に編成されたグループは、西藤と共にフロントを飾るのがドミニク・ファリナッチ(tp)、ジュリアードのジャズ・コースで名を馳せた秀才で、日本ではすでに数枚のCDをリリースし、高い人気を誇っている俊英だ。ベースには、西藤のバークリー音大時代からの盟友で、現在ジュリアード・ジャズ・オーケストラの土台を支えている中村ヤスシ、新生クルセイダーズにも起用されたドラムのケンドリック・スコット、セッション仲間のダン・カウフマン(kb)と、ヤング・ライオンたちが集結した。 |
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続くアップ・テンポ・チューンの"Bleu"は、中村とスコットの強力なグルーヴの上で、西藤、フェリナッチ、カウフマンの三者が、ある時はタッグを組み、またあるときはバトルロワイヤルというスリリングな展開の曲であり、日曜日の午後の空気は緊迫した。その空気をカームダウンするかのように演奏した、スタンダード・バラードの"ポルカ・ドッツ・アンド・ムーン・ビームス"では、西藤のウェス・モンゴメリー(g)、ジョージ・ベンソン(g,vo)につらなる正統派ジャズ・ギタリストの側面を聴かせてくれた。故郷の宮崎の冬をモチーフにした"Winter
Rain"、ワルツの"Twilight"が演奏される。西藤とフェリナッチのコンビネーションは、美しいデュエットを演出する。フェリナッチはアルバムでは、日本のリスナーを意識したスタンダード・バラードを朗々と歌い上げるプレイをしているが、けっしてそれだけではない実力を聴かせてくれた。西藤のオリジナルもニューヨークのクラブ・シーンで流行の兆しを見せている癒し系の音楽の"Chill
Out Music"をも取り入れており、その貪欲な姿勢は好感が持てる。
パフォーマンス・タイムはあっという間に過ぎ去り、いよいよラスト・チューンとなった。ステージには、女性シンガーが登場した。グレチャン・パラート、毎年楽器別で開催され、ジョシュア・レッドマン(ts,ss)など多くの才能を生み出してきたセロニアス・モンク・コンペティションの2004年度の優勝者で、 早くもハービー・ハンコック(p)や、ウェイン・ショーター(ts,ss)との共演を果たした、将来を嘱望されるヴォーカリストである。ニューアルバムにも収録される予定で2005年12月にLPヴァイナル・シングルとしてもリリースされる"Formentera Sea"を歌い、花を添えてファースト・セットが終わった。 |
![]() グレチャン・パラート |
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関係ウェッブサイト 西藤大信 Blue Note NY |
(2005/10/30 於Blue Note NY)
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