N.Y.ジャズ見聞録
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盛り上がり始める初日、2日目の完全リポート |
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ジャズ・コミュニティに年明けを告げる恒例イベント、IAJE(国際ジャズ教育者協会年次総会)が第34回目を迎え、今年も前年に引き続きニューヨークで、1月10日から13日までの4日間に渡って開催された。会場となったミッドタウンのメイン会場のHilton
New York & Towersと、サブのSheraton New York Hotel & Towersの各ボールルームや、イベント・ホールでは、ノンストップのマラソンのようにさまざまなイベントが同時進行する。この濃厚な4日間を、3回にわたって、さまざまな角度からリポートしたい。
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今年の年次総会は、全世界30ヶ国以上から6,500人以上の、ミュージシャン、学生、教員、出版社、メーカー、レコード会社、プロダクション関係者が参加し、131のコンサート、177のクリニック、パネル・ディスカッション、シンポジウム、189の展示即売ブースが設けられた。名実共に、北米ジャズ界での屈指のビッグイベントである。1月10日の午後に、全米や世界各地から参加者が集い、レジストレーション(参加登録)が開始される。セッション的なライヴもボツボツと始まった。
シェラトン・ホテルでの、最初のライヴは、ジャズ・コンセプション・シリーズ の著者ジム・スナイデロ(as,fl)の紹介に導かれて、エリック・アレキサンダー(ts)、ジム・ロットンディ(tp)、デヴィッド・ヘイゼルスタイン(p)らの"One for All"が登場した。「ジャズ・コンセプション・シリーズ」の模範演奏や、日本盤のCDを数枚リリースしていて日本での評価の高いこのグループは、この日はセコンド・フロア・ミュージックからりリースしている、オリジナル・スコアのデモンストレーション演奏をした。アート・ブレーキー(ds)&ジャズ・メッセンジャーズ黄金時代の50、60年代を彷彿させるハード・バップ調のオリジナル曲が、コンパクトな短いコーラス数のソロ交換とともに、次々と演奏された。 ヒルトン・ホテルのグランド・ボールルーム(メイン会場)に移動すると、アマチュア・グループの演奏に続いて、ジョーイ・デフランチェスコ(org,kb)が、最近めきめきと頭角をあらわしているサックス・プレイヤー、ロン・ブレイクをフィーチャーしたファンキー・サウンドで、会場を盛り上げていた。このあとは2会場とも午前1時を廻るまで、次々と有名プレイヤーが登場、前夜祭を彩る。 |
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![]() ワン・フォア・オール、エリック・アレキサンダー(ts)、ジム・ロットンディ(tp)、スティーヴ・デイヴィス(tb)、 デイヴィッド・ヘイゼルタイン(p)、デヴィッド・ウィリアムス(b)、ジョー・ファーンズワース(ds) |
![]() ジョーイ・デフランチェスコ |
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翌日は朝9時から、クリニックやパネルディスカッションが、11時からはコンサートもスタートした。午後2時のヒルトン・ホテルのグランド・ボールルームで行われるオープニング・ゼネラル・セッションで、いよいよ正式に年次総会はスタートした。IAJE会長のチャック・オーエンの開会宣言に続き、年次報告、そして隔年で、ジャズの現場の撮影を手がけるフォトグラファーを顕彰する、ミルト・ヒントン賞の授与が行われた。前回は、日本の阿部克自氏が受賞したこの賞だが、今回は、イギリスのフレッド・レッドファーンズが選出された。レッドファーンズは、ジャズ・ミュージシャンの撮影にとどまらず、ビートルズのマジカル・ヒストリー・ツアーの撮影でも知られる、世界的な音楽フォトグラファーだ。また毎年顕彰される、IAJEとASCAP(The American Society of Composers, Authors and Publishers アメリカ作曲家作詞家出版社協会)の選出による、若手作曲家と、中堅以上の作曲家への奨励賞は、オスカー・ペレス(p)、とルーファス・リード(b)にそれぞれ授与、記念演奏が披露された。かつてマリア・シュナイダー(arr,banndleader)らも受賞し、若手ビッグバンド・アレンジャーへの登竜門とも言えるギル・エヴァンス賞に選出されたのはシェリッス・ロジャースだった。演奏されたオリジナル曲"Crossing Paths (3 tales)"は、緻密でダイナミックな構成で、さらなる飛躍が期待できる野心作だ。
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2日目の午後6時には、展示ブースがオープンし、いよいよすべてのイヴェントが始動する。譜面、教則本の出版社、雑誌社、ジャズ科を持つ大学、軍のジャズ・バンド、メジャー&インディ・レーベル、非営利団体、ジャズ・フェスティヴァルの企画プロダクション、楽器メーカー、楽器店と、ジャズ・コミュニティを構成するさまざまな団体が参加し、189ものブースがセッティングされている。この日は、7時30分までの顔見せだが、翌日からは午前10時から午後5時まで、午後2時からの1時間は、コンサート、クリニック等もストップし、展示ホールがメイン・イヴェントとなる。多くのミュージシャンが、ブースで著書やCDへのサイン即売会を催き、直接質問をする機会もある。またレアな譜面、教則本、CDの発掘に没頭するのも楽しい。各レーベルのサンプルCDなどの情報収集も、今年1年のジャズ界の動向を占うには、欠かせない。楽器の試奏。メーカーの専門家、契約アーティストへの質問も可能だ。アメリカでジャズを学ぶことを考えている人には、さまざまな学校のブースを訪れ、担当者に直接話を聞き、また学生や教員のデモ演奏に触れて、自分のニーズにあった学校を探すには絶好の機会である。
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![]() アドヴァンス・ミュージック |
![]() ケンドール・ミュージック |
![]() Remoのブースで、 マット・ウィルソン(ds)をキャッチ |
![]() 楽器メーカー・ブースも充実 |
![]() ハル・レオナード |
![]() デイヴィッド・リーブマン夫妻が 経営する、カーリス・ミュージック |
![]() ブルーノート・レコード |
![]() 創立6年で、グラミー賞受賞2回、 インターネット通販、ダウンロード販売の インディ・レーベル、アーティストシェア |
![]() バークリー音楽大学 |
![]() パフォーマンス重視のカリキュラムで、 多くの人材を輩出した ニュースクール大学ジャズ& コンテンポラリー・ミュージック科 |
![]() 少数精鋭のジュリアード音楽院 ジャズ科 |
![]() ジャズ・ミュージシャンと、 その家族への日曜の 夜のミサ、数々のジャズ・ジャイアンツの メモリアル・サーヴィス (追悼集会)を 執り行 ってきた、セイント・ピータース教会 |
豊富なアペタイザーとも言えるさまざまなイヴェントに参加したあとの、メイン・ディシュは、やはりヒルトン・ホテル、グランド・ボールルームの夜のコンサートだ。スタン・ゲッツ賞/クリフォード・ブラウン賞受賞者のオールスター・グループらが、オープニング・アクトを飾る。ラテン・ミュージックのクリティシャンとしても著名なブライアン・リンチ(tp)と、コンラッド・ハーリング(tb)の双頭ユニットは、"The Latin side of Miles Davis"と銘打ったプロジェクトで登場する。"セブン・ステップ・トゥ・ヘヴン"、"ソラー"、"アランフェス交響曲"といったマイルス・スタンダードが、サルサとなって新たな息吹を与えられ、会場はラテン・クラブの様相を呈していった。ブライアン・リンチ(tp)は2月のグラミー賞では、インターネット通販、ダウンロード販売のみのインディ・レーベル、アーティストシェアからリリースした、エディ・パルミエリ(p)とのアルバムで、ベスト・ラテン・ジャズ賞を受賞した。続いて登場したのは、ハイパー・フュージョン・ユニット、ランディ・ブレッカー(tp)&ビル・エヴァンス(ts,ss)のソウルバップ・バンドだ。2005年夏に、骨髄異形成症候群に倒れたマイケル・ブレッカー(ts)の代役として、ステップス・アヘッド再結成ツアーに参加したビル・エヴァンスだが、このユニットでもマイケル・ブレッカーの不在を埋めるようなパワー・プレイを聴かせてくれた。ギターの暴れん坊将軍と異名をとるハイラム・ブロックの派手なステージ・パフォーマンス、ヴィクター・ベイリーのタイトなベースに、デイヴィッド・キコスキー(kb)の高速パッセージ、これらの歴戦のヴェテランを、ロドニー・ホームスのドラミングがシャープに、がっちりと支えていた。 |
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ここまでで、まだ2日目、全体の50%も消化していない。次回は、ピーター・アースキン(ds)の"タイム・アウェアネス・クリニック"を中心に、パネル・ディスカッション・イベントに焦点を当ててみたい。 (1/10、11/2007 於Hilton New York & Towers, Sheraton New York Hotel & Towers) 関連ウェッブサイト
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