N.Y.ジャズ見聞録
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全米ジャズ界の、年頭を飾るビッグイベントIAJE(国際ジャズ教育者協会)年次総会が、2年ぶりにニューヨークに戻ってきた。ミュージシャン、レコード会社、出版社、教育機関、プロダクション、学生、メディアと、全米のみならず、全世界のジャズ文化を支えるメンバーが一堂に会して、前夜祭の1月11日の夜から、14日まで毎日朝から深夜2時と、マンハッタン・ミッドタウンのヒルトン・ニューヨーク・ホテルと、シェラトン・ホテルの2箇所でノンストップで様々なイベントが催される。今回から3回に渡って、この4日間の模様を様々なアングルからお伝えしたい。
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例年、前夜祭はVIPが参加するメンバー限定のディナー・パーティであるギャラ・コンサートがメインで、コンサートの本格的スタートは2日目以降なのだが、今年は通常通りの一般参加が可能なシェラトン・ホテルでのライヴと、メイン・ホールのコンサートで幕開けし、初日から充実したコンサート・プログラムが組まれていた。オープニング・アクトのアマチュア・グループ、ラヴィ・コルトレーン(ts)・クァルテットの演奏のあと、バークリー音大の理事長を務めたリー・バークが、ジャズ教育への長年の功績を顕彰された。続いてステージに登場したのは、バークリー音大のOBの小曽根真と、オール・ジャパンともいえるメンバーをそろえたビッグバンド「ノー・ネーム・ホーセス」であり、その演奏は好評を博していた。(詳細は次回)この日の最終コンサートは、今やNYナンバー・ワン・ビッグバンドと言っても遜色ないマリア・シュナイダー・オーケストラがシェラトン・ホテルに出演。アンコールに応え午前2時まで演奏が続き、前夜祭から全開で熱い4日間がスタートした。
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![]() リー・バーク |
![]() デイヴィッド・カフェイ |
1月12日の朝8時からイベントは開始された。前夜祭も含めると4日間で300にも及ぶ、コンサート、クリニック、パネルディスカッション、シンポジウムが同時進行する。午後2時のオープニング・ジェネラル・セッションでの、現IAJE会長のデイヴィッド・カフェイの高らかな開会宣言により、年次総会は正式に開幕した。執行スタッフの年次報告、TS・モンク(ds)による、ブロードバンド・インターネットを利用し遠隔地どうしのセッショッンも可能にするという画期的なジャズ教育システム、"スマート・ミュージック"のプレゼンテーションが行われた。そしてプログラムに記載されてなかった人物がステージに現れた。長年のジャズ界への功績が顕彰された、永遠のフリージャズのカリスマ、オーネット・コールマン(as,tp,vln)である。トレードマークの派手なスーツに身を包み、スタンディング・オベーションに、言葉少なに応えていた。意外なゲストの登場の興奮がさめやらぬ間に、本年度のIAJE/ASCAPの作曲賞の受賞者のジミー・グリーン(ts)の率いるカルテットによる受賞曲"Anthem of Hope"の演奏が始まった。しかし超満員が予想される3時からのイベントののため、ここヒルトン・ホテルのメイン会場をあとにし、シェラトンホテルに向う。 |
![]() オーネット・コールマン |
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この日の午後の最大の注目を集めたイベントは、やはりソニー・ロリンズ(ts)とアイラ・ギトラーの公開対談であろう。2004年秋にロリンズの音楽活動を50年代から公私にわたってサポートしてきた愛妻ルシール夫人に先立たれて以来、音楽活動を縮小し、昨年秋には日本での最後のツアーでお別れを告げたのだが、本国アメリカでも公的な場に出席することはかなり少ないロリンズが、自らの音楽キャリアを振り返るこの対談には、入りきれないほどの、多くの聴衆が詰めかけた。イースト・ハーレムでの様々な音楽に囲まれた少年時代、シュガーヒルでジャッキー・マックリーン(as)やアート・テイラー(ds)と過ごした高校時代、そして40年代後半のビバップ旋風が吹き荒れる中での、チャーリー・パーカー(as)や、セロニアス・モンク(p)、マイルス・デイヴィス(tp)との出会いが、まるでつい昨日の出来事のように語られていく。対談相手のギトラーのプロデュースによる、プレスティッジ・レコードでのデビュー録音のエピソード、クリフォード・ブラウン(tp)=マックス・ローチ(ds)・クインテットへの参加秘話、そして最大のヒット作"サキソフォン・コロッサス"に話が及ぶ頃には、ほぼ制限時間に達してしまい、残りの50年が約5分ほどにまとめられてしまうハプニングはあったが、巨匠の波瀾万丈のジャズ・ライフの一部を垣間見ることが出来た。このような対談だけでなく、クリニックやセミナーでも、多くの収穫を得ることが出来るのは、IAJEの大きな魅力の一つだ。クレイトン・キャメロン(ds)のドラムにおけるブラッシング・ワークや、テッド・ローゼンタール(p)によるクラッシックの名曲をいかにジャズに編曲するかというテーマのセミナーは、演奏者だけでなく一般リスナーにとっても興味深いテーマを含んでいた。
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12日の夜6時からはヒルトン・ホテルの2階で、出版社、教育機関、レコード会社、メーカー、楽器店、プロダクションらの190ものブースが立ち並ぶ展示会場がオープンし、IAJEのすべてのイベントが始動した。会場を巡ると、ATNと提携関係にあるドイツのアドヴァンス・ミュージックや、アメリカの教則本出版界を二分するアルフレッドと、ハル・レオナード、独自のDVD教材のライナップを誇るメル・ベイから、中小の出版社までが立ち並び、普段はインターネット上でした目に出来ない、レアな教則本や譜面も直接手にとって吟味することが出来る。またメジャールからインディ多くのレーベルのレア・アルバムやサンプラーを入手し、レコーディング業界のトレンドのリサーチも出来る。アメリカでジャズ・ミュージックの専門教育を受けたいと思う学生には、全米の主要なジャズ科を持つ大学がブースを出しており、資料収集、インストラクターへの直接の質問、学生のデモンストレーションと、それぞれの学校の特色を知る機会に恵まれており、有名校だけではない自分自身の志向にあった学校に出会えるだろう。会場には、多くのアーティスト達もハングアウトしていたり、自著やアルバムのサインに気軽に応じてくれる。ハイ・クオリティ・レコーディングで知られるNYのチェスキー・レコードのブースでは、つい先頃デビューした、日米ハーフの期待の新人シンガー、ヴァレリー・ジョイス(vo)に会うことが出来た。最終日の夕方まで、楽器メーカーの展示場では、試奏の音が鳴りやむこともなく、活況を呈している。 |
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![]() アドヴァンス・ミュージック |
![]() アルフレッド |
![]() ハル・レオナード |
![]() メル・ベイ |
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IAJEの魅力は、やはりここでしか聴くことが出来ない珍しい顔合わせライヴや、各レーベルのショウケースであろう。もちろんアメリカ各地から集結した有名大学のビッグバンドや、ヨーロッパの有力ビッグバンドや、今年は日本からも参加した小曽根真(p)率いる「ノー・ネーム・ホーセス」、そしてアメリカの一流ビッグバンドが集結し、その覇を競い合う姿は壮観である。(詳しくは次回以降にリポート)コンボ演奏の中にも、ビッグバンドの旨味を濃縮した緻密な構成のグループや、ワールド・ミュージック、創造力と想像力が自由奔放に駆けめぐる演奏と、様々なクライマックスを体感できた。 メジャーレーベルでは、ブルーノート・レコードが昨秋に満を持してシーンに投入したピアニスト、ロバート・グラスパー(p)のトリオが白眉であった。ニュースクール大のジャズ科在籍時から、ブルックリンやマンハッタンのクラブで頭角をあらわし、ヴィンセント・ハーリング(as)らのグループのサポートで知られたグラスパーは、ブラッド・メルドー(p)に続くピアノ・スターの誕生を予感させる逸材だ。また、60年代に、ジョアン・ジルベルト(vo,g)や、アントニオ・カルロス・ジョビン(p,g,vo)らがアメリカにボサノヴァを伝播した頃からその中核にいて、ジャズのみならず、ヨー・ヨー・マ(cello)のピアゾラ・プロジェクトや、ブラジル音楽プロジェクトのプロデューサーとしても高い評価を受けているオスカール・カストロ=ネヴァス(vo,g)も、所属レーベル、マック・アヴェニュー・レコードのショウケースに登場した。根拠地であるロス・アンジェルスから、ニューヨークでは滅多に聴けない強力なセッション・プレイヤー達、ドン・グルーシン(p)、アレックス・アクーニャ(ds)、ブライアン・ブロンバーグ(el-b)を率いて、ワールド・ミュージックの枠を越えた、強烈かつしなやかなグルーヴが魅力のバンドで熱演した。 |
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今年のNEAジャズ・マスターの一人、チック・コリア(p,kb)もスペシャル・ユニットで最終日のメイン・ステージに登場した。60年代後半からの初期のエレクトリック・マイルス・グループを共に支えたジャック・ディジョネット(ds)と、ピアノ・トリオの定型を創りあげたビル・エヴァンス(p)・トリオに長年在籍し、70、80年代に、「フレンズ」、「スリー・クァルテッツ」と言った快作でコリアとのコラボレーションを聴かせてくれたエディ・ゴメス(b)が参加したトリオだ。前座には、少年少女の打楽器楽団の"ルイヴィル・レオパード・パーカショニスツ"が登場し、コリアの有名曲"スペイン"を一糸乱れぬアンサンブルで、聴かせその登場の露払いをした。"ソー・ニアー・ソー・ファー"、"マイルストーン"が、オープンに、奔放に演奏される。曲間にはゴメスは、1960年にジュリアード音楽院で初めてコリアに出会ったときのエピソードや、ディジョネットはマイルスグループ在籍時代の思い出をかたり、コリアのジャズ・マスター受賞を祝福した。フリー・インプロヴィゼーションでも、3人の強烈な個性が錯綜してスパークし、完成度の高い鉄壁のアンサンブルを聴かせてくれる。マスター・プレイヤーの名にふさわしい、貫禄のライヴであった。次回はビッグバンド・ライヴを中心にお伝えしたい。 |
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